単位系と次元:自然単位系

はじめに

自然界には基礎的な“次元”(時間,長さ,質量)等が存在しており,ほとんどの物理量はこれらの組み合わせで表現される.そしてその次元の目盛りは勝手に与えることができ,これを一般に”単位“と呼んでいる.

これらの違いが明確になるように例を示す.ここでは丁寧に,次元を表す時は角括弧”[]”で囲んで表すことにする.例えば時間の次元は[T]である.

“分(min)”という単位で2分を表すとすると次のようになる:

\begin{equation}2\underbrace{\textrm{min}}_{\textrm{単位}}\overbrace{[T]}^{\textrm{次元}}\end{equation}

次に,単位を分(min)から秒(s)に直す場合は,\(1\textrm{min} = 60\textrm{s}\)という関係があるので,

\begin{equation}120\underbrace{\textrm{s}}_{\textrm{単位}}\overbrace{[T]}^{\textrm{次元}}\end{equation}

となる.単位は分から秒に変わったが,次元は変わっていないことに注意してほしい.上で述べたように単位は人間が勝手に置いた目盛りなのであるから,物理学で使われる本質を見抜く時は次元がより根本的であることがわかると思う.

次元の資格と次元解析

昔は磁気と電気の関係がわからなかったので,それらは全く違う力(次元)として考えられた時代があった.これをそのまま受け入れると「電流」と「磁流1」という別々の次元を与えることができるだろう.

たが19世紀にこの知識に変更が加えられた.物理学者であるエルステッドやファラデーらの研究を経て「どうやら磁場の由来は電場にある」ということがわかってきたのである.すると次元はどうなるか.「磁流」という単独で考えてきたことが「電流」でも表されることになるとわざわざ2つ次元を考える必要がなくなるのだ.

したがって,現在は電流(\(I\))のみが採用され,磁場に関わる諸公式は電流\(I\)や時間\(T\),長さ\(L\),質量\(M\)で表される.実際の表式としては,

あらゆる物理量 \(= I^{\alpha}T^{\beta}L^{\gamma}M^{\delta}\)

となる.

この公式を用いて物理量の間の関係式を推測していくテクニックは”次元解析”と呼ばれる.

これ以外の次元があるかどうか,考え耽ってみるのも面白いのではないだろうか.

MKS単位系と自然単位系

力学の場合,多くの場合使われるのがMKS単位系であり,単位はそれぞれ

時間\(\rightarrow \)s(秒)[\(T\)]\(\qquad\)長さ\(\rightarrow \)m(メートル)[\(L\)]\(\qquad\)質量\(\rightarrow \)kg(キログラム)[\(M\)]

と設定される.これらは単位の系(system)を成しているので単位”系”である.

冒頭で述べた通り,単位はあくまで勝手につけた目盛りなのでこちらの都合で変更しても良い.そこで,例えば単位として「物理定数」を用いることができる.物理”定数”なのでそれを目盛りとするわけである.

具体的にどういった定数を選ぼうか?どうせなら根本的な定数を扱いたい.
“自然単位系”と呼ばれる単位系はまさにこの要求に基づいており,例えば以下の単位を定めることができる2

\begin{equation}\tag{1} c \approx 3\times 10^8 \textrm{m} \textrm{s}^{-1}[LT^{-1}],\qquad \hbar \approx 1.05\times 10^{-34}\textrm{kgm}^2\textrm{s}^{-1}[ML^2T^{-1}] \end{equation} \begin{equation} G \approx 6.67 \times 10^{-11}\textrm{m}^3\textrm{kg}^{-1}\textrm{s}^{-2}[L^3M^{-1}T^{-2}] \end{equation}

\(c\)は光速,\(\hbar\)はプランク定数\(h\)を\(2\pi\)で割ったディラック定数という値,\(G\)は重力定数である.

単位を変えても次元は変わらないので,力の次元は依然として[\(MLT^{-2}\)]であるし,運動量も[\(MLT^{-1}\)],エネルギーも[\(ML^2T^{-2}\)]であることに注意しよう.すると,上で用意した自然単位系を採用しても,力を表現するときは[\(MLT^{-2}\)]の次元を再現しなければいけないことになる.物理量の次元を再現するために,自然単位系からパズルのように組み立てていくのもいいが,手っ取り早いのは基本的な次元(\(T\),\(L\),\(M\))をパズルのピースとして用意して,そこから様々な物理量を組み立てていく方が断然楽である.そこで\(c\)と\(\hbar\)と\(G\)の次元から基礎次元の式を求めていく.式(1)を使って単体の次元を整理すると以下のようになる(実際に計算して求めて見ると良い).

\begin{equation}\tag{2} [T] = \sqrt{\frac{G\hbar}{c^5}}\qquad[L] = \sqrt{\frac{G\hbar}{c^3}}\qquad[M] = \sqrt{\frac{\hbar c}{G}} \end{equation}

ルートが厄介かもしれないがこれも立派な単位系としての資格を持つ3

質量やエネルギーを単位としてみる

次に,式(1)における重力定数\(G\)を変更して,別のある質量\(M_C\)と置いてみよう.

質量自体は物体によって色々変わるがある量を固定してそれを目盛りとすれば,その値を用いて単位系を構築しても良い.

\begin{equation} c \approx 3\times 10^8 \textrm{m} \textrm{s}^{-1}[LT^{-1}],\qquad \hbar \approx 1.05\times 10^{-34}\textrm{kgm}^2\textrm{s}^{-1}[ML^2T^{-1}] \end{equation} \begin{equation} M_{C} = C [M] \end{equation}

これらを用いて,\(M_C\)の次元は[\(M\)]であることに注意しながら,再び式(2)のように次元を求めてみると以下のようになる.

\begin{equation} [T] = \frac{\hbar}{M_C c^2} \qquad[L] = \frac{\hbar}{M_C c}\qquad[M] = M_C \end{equation}

一方,質量\(M_C\)の代わりにエネルギー\(E_C\)と置いてみよう4.すると,

\begin{equation}\tag{3} c \approx 3\times 10^8 \textrm{m} \textrm{s}^{-1}[LT^{-1}],\qquad \hbar \approx 1.05\times 10^{-34}\textrm{kgm}^2\textrm{s}^{-1}[ML^2T^{-1}] \end{equation} \begin{equation} E_{C} = C [ML^2T^{-2}] \end{equation}

となり,これもまた次元を求めると

\begin{equation}\tag{4} [T] = \hbar E_C^{-1} \qquad[L] = \hbar c E_C^{-1}\qquad[M] = E_C c^{-2} \end{equation}

となる.式(2)よりはスッキリしているが,特に注目したいのは全ての式でエネルギー\(E_C\)の単位が出てくることである.

これをさらにシンプルにしたい.注目したいのは物理定数\(c\)および\(\hbar\)である.この値はエネルギー\(E_C\)と違って必ず同じ量として現れるので無視することはできないか?

そこで\(c=1\),\(\hbar=1\)と置いてしまうことにしよう.単位系の変換が必要になった時にこの二つの定数をかけてあげるだけでいい.

実際にこれらの値を光速とディラック定数に代入すると,式(4)は

\begin{equation} \tag{5} [T] = E_C^{-1} \qquad[L] = E_C^{-1}\qquad[M] = E_C \end{equation}

となる.なんと全てエネルギーの単位で表せることになる5

結局式の中で出てくる\(c\)や\(\hbar\)を消すことができるので,物理量を記述する式がエネルギーという単位に統一され,この単位系の元では様々な式がシンプルに表せることになる.

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